今回は「家づくり」から派生して、「子育てに関するお金のこと」について記事を書きます。
最近、少子化対策の一環としてフランスで既に導入されている「N分N乗方式」が脚光を浴びることになりました。
日本における出生率の低下は、長年にわたり政府にとって大きな懸念事項でしたが、今回とうとう腰をあげて対策を検討しています。
これが完璧な解決策ではないかもしれませんが、日本の出生率の低下傾向を逆転させるのに役立つ可能性はあるのかと思います。
この制度は子供3人いる筆者にとっては影響が大きいので、調べた内容を分かりやすく解説します。
この記事で紹介していること
・現行制度との違い
・具体例を交えたメリット・デメリット
※前提となる用語について。
・出生率:人口1,000(人)あたりの出生数
・合計特殊出生率:一生の間にひとりの女性(15~49歳)が生む子どもの数
「合計特殊出生率」は2.0以上(女性1人が2人子供を生むという意味)でなければ人口は増加しないと言われています。
「1.0以上でいいのでは?」と誤解しないように。
夫婦2人から子供が生まれるので、2人産まなければ単純に人口が減少していくということです。
では本題について詳しく解説するので是非ご一読ください。
異次元の少子化対策「N分N乗方式」とは?
”N”はNumber(数)、”分”は割り算、”乗”は掛け算を表していて、家族の数(N)割り算したり、掛け算して所得税を計算する方法です。
”N”は大人を”1”、子供は2人目までは"0.5"、3人目からは"1”としてカウントします。
この制度は第2次世界大戦後のフランスで導入された制度で、出生率の向上に一定の効果があったとされる制度です。
フランスの2020年の合計特殊出生率は1.83と欧州連合(EU)内でもっとも高く、日本の1.34に比較すると大きく差があります。
これでもフランスは近年、「2.0以上を保っていた出生率が下がっている!」と言って対策を検討しているのですから、どれだけ日本が少子化対策を行ってきていないかがよくわかると思います。
ちなみにG20の中での2020年出生率ランキングでは、日本は17位という低い位置。ランキングに参加した206ヵ国でみると189位と低い位置につけています。
「N分N乗方式」を簡単にわかりやすく言うと?
すごく簡単に言うと、「子供が増えれば増えるほど所得税を軽減する仕組み」です。
ポイントは「N」の数で割り算・掛け算をすることで、税額を計算するときに子供の数も含めて計算します。
割り算するときに、夫婦2人の収入であっても母数が「2」ではなく、子供が2人いれば「+1」、子供が3人いれば「+2」の母数で割ることができるので課税所得が大きく減額できるのです。
例えば年収900万なら本来税率33%ですが
・子供が2人いれば 900万 ÷ 3(N=1+1+0.5+0.5) = 300万円が課税所得→税率10%
・子供が3人いれば 900万 ÷ 4(N=1+1+0.5+0.5+1) = 225万円が課税所得→税率10%
となり、課税所得・税率が減ることになります。
N分N乗方式は英語でいうと?
既に導入されているフランス語では「Le système de quotient familial」
英語では「The family quotient system」というようです。
quotientは”割り算の商””割当量”という意味合いがあるので、「家族・世帯の割り当てシステム」という意味合いみたいですね。
現行制度との税額の計算方法の違いは?
家族の人数「N」で収入を割ったり掛けたりするのはわかったかもしれないですが、具体的に現行システムと比較してどれくらい税負担が軽くなるのでしょうか?
以下の家族構成で解説します。
・夫婦2人+子供2人の4人家族
・夫:400万、妻:200万の世帯年収600万
条件はこれだけです。累進課税の税率は国税庁のHPをご覧ください。
なおこの章ではイメージをつかんでもらいたいので、控除金額などは考慮せずにシンプルに計算してみます。
現行制度では夫婦共働きの場合でも、個人ごとに課税額が計算されますが、「N分N乗方式」では夫婦の収入を合算した世帯収入と家族構成によって課税額を計算することが大きな違いです。
現行制度
・「世帯収入」ではなく「個人収入」で計算して課税
・子供の人数は関係ない
N分N乗方式
・「個人収入」ではなく「世帯収入」で計算して課税
・子供が多いほど「N」が増えて税負担が軽くなる
こんなに違う!?片働き・共働き別の具体例
先ほどはイメージをつかんでもらうために控除額を考慮せずに解説しましたが、ここでは更に違いを知ってもらうために、所得金額や控除額も考慮して解説します。
子供3人の場合と子供2人の場合で試算してみたので、差額に注目してご覧ください。
5人家族 世帯年収1200万円の場合
まずは5人家族の例で見てみましょう。
働き方別の所得税額の違い
・「片働き」世帯が「N分N乗方式」になると73.7万円も税負担が軽減
・「共働き」世帯が「N分N乗方式」になると26.9万円も税負担が軽減
計算すると、こんなにも差が出てくるんだね。。。
これだけ負担が減れば教育資金とかに回すことができるわ!
4人家族 世帯年収1200万円の場合
続いて、同じ条件で、「子供2人」の4人家族で計算してみます。
働き方別の所得税額の違い
・「片働き」世帯が「N分N乗方式」になると64.7万円も税負担が軽減
・「共働き」世帯が「N分N乗方式」になると17.9万円も税負担が軽減
・子供3人の計算結果と比較すると、子供1人の違いで9万円の差がでる
確かに子供が多いほど税負担が小さくなるんだね。塵も積もれば結構な金額になりそう。
フランスでは既に導入済みだが、成功例となっている?
第二次世界大戦で人口が減ったことへの対策としてフランスでは1946年からこの制度が導入されています。
直接的な成果というには情報が足りませんが、フランスの2020年の合計特殊出生率は1.83と欧州連合(EU)内でもっとも高く、G20中でも8位となっており一定の効果があると言われています。
また、少なくとも日本よりは国民が結婚・出産に対する抵抗感が薄く、前向きに出産・育児に取り組めるようになっていると言われています。
社会制度も必要だけど、日本の中のマインドも変わらないといけないよね。
どんなメリットがある?
ここまで紹介したことも含めて、N式N乗方式ではどういったメリットがあるのでしょうか?
多子世帯の所得税が軽減
ここまでに紹介したように、多子世帯における税負担が大きく軽減されることで、子育て支援に繋がります。
出生率アップが期待できる
子供が多いほど税負担が軽減されることから、「子供=お金がかかる」という意識から避けていた2人目、3人目が選択肢に入り、結果的に出生率の向上が期待されます。
税制や公平の観点でデメリットもある
多子世帯には非常にメリットが大きい「N式N乗方式」ですが、デメリットもあります。
税制改革が必要
現在の税制では、所得が大きい人ほど税金を収めることが前提になってますが、上記の例にあったように、たとえ高収入でも子供が多ければ納税額が少なくなるので、税収が減少します。
なので、現状の税収を維持するためには財源の調整などが必要になると言われており、慎重に検討がされています。
反対意見が多く出ると思うので流石にないと思いますが、子育て世代からの税収が減るため逆に子供がいない世帯や独身世帯からの増税を行うなど、これまでとは全く異なる税制改革が必要になると思います。
「この制度をなぜ採用しない?」と思われる場合は、こういった税制改革が必要なので慎重にきめているのだと思ってください。
「検討」もいいけど「決める」ことは早くしてほしいものだけどね。
子供がいない世帯、独身者にはメリットなし
これまでの説明のとおり、このN式N乗方式は出生率を向上させる制度なので、子供がいない世帯・独身者にメリットはありません。
共働き世帯は恩恵がすくない?って本当?
ニュースを見ていると、
・N式N乗方式は共働き世帯にはメリットが少ない
・片働きの方がメリットが大きいから、女性の社会進出の流れと逆行する
といったデメリットの書き方をしている記事を多く見ました。
これはちょっと違うようです。
先程ご説明した下図例を改めて見ていただくとわかるのですが、
・「N式N乗方式」になると、片働きの場合は ”-73.7万円”、共働きの場合は” -26.9万円”税負担が減少してます。
・減額分だけで語ると、"46.8万円(73.7-26.9)"分 共働き世帯のメリットが少なくなります。
ただそもそも、同じ世帯年収だと現行制度の時点で片働きと共働きの間で"46.8万円(112-65.2)"の差があり、共働きのほうがメリットがあるのです。
ですので、片働き・共働きの税収が均一化されるといえども、双方にメリットがある制度です。
「共働きが優遇されるべき」といった前提で今後も差額部分だけがデメリットとして語られると思うけど正しい知識で聞くべきにゃ
おわりに
「N式N乗方式」は子供が3人いる筆者にとっては、是非採用してほしい制度です。
子育て用品や教育資金のために四苦八苦していますが、この制度で税負担が軽減されれば、現在分をそのまま子供のために回すことができますので。
税制改革が必要になってくるでしょうが、今後も動向を注目したいです。